日本語
か
○桿体(rod):錐体と共に脊椎動物の網膜を構成する視細胞の一型。錐体と同様に内節と外節(これだけを桿体とし、全体を桿体視細胞と呼び分けることもある)に分かれ、視物質を含む外節が桿状をしているのが名称の由来。夜行性のコウモリ、ネズミ、フクロウなどの鳥類、ヤモリ、深海魚の網膜は、視細胞のほとんどあるいはすべてが桿体からなる桿体網膜(rod retina)であり、桿体は薄明視に関与し、錐体と視覚機能を分担する(二元説)。外節には細胞膜と分離した膜性円盤があり、円盤膜には視物質が結合し、表面あるいは細胞質中に光情報の伝達過程に関与する種々のタンパク質が存在する。桿体の視物質は大抵ロドプシンである。しかし、夜行性ヤモリなど一部の動物の視細胞は、形態的には桿体であるが錐体型のオプシンを含み、昼行性ヤモリの錐体が行動様式の変化に伴って桿体に進化したと考えられている。
き
○魚類(fishes):伝統的分類体系において脊椎動物のうち、円口類、それ以外の無顎類、板皮類、軟骨魚類、硬骨魚類の6群の総称。魚綱とされたこともある。円口類の異質性が強調されるに伴い、最近では使用されない。魚形類に同じ。通常、板皮類、軟骨魚類、棘魚類、硬骨魚類の4綱を含む。
し
○視細胞(visual cells):動物の光受容細胞のうち、特に視覚機能のために分化したもの。視細胞はすべて一次感覚細胞の形態をとり、自ら産生する視物質の光化学的反応により興奮を生ずる。脊椎動物の視細胞には、網膜に属するものと松果体に属するものがある。網膜のものは錐体と桿体で、桿体の光受容装置は繊毛が肥大化して細胞膜を取り込み、内部に大量の膜性円盤を蓄積し、外節となる。外節の基部は肥大化せず、結合繊毛となる。外節の周辺には微絨毛(calycal process)がある。内節にはミトコンドリアの集合(エリプソイド)があり、爬虫類と鳥類の錐体視細胞は内節の最も外節寄りに著名な油小滴をもつ。油球の多くは、赤・黄・うす緑などの色のついたカロテノイドを含み、特定波長の光を通す色フィルターとして働き、色弁別能の向上に寄与すると考えられている。これら光受容装置と反対の極に軸索終末(桿体小球と錐体小足)があり、特殊なシナプス構造のリボンシナプス(ribbon synapse)を示す。桿体と錐体への分化はヤツメウナギにおいてすでに見られ、進化ともに視細胞の形態と視物質の多様化がみられる。哺乳類を含む脊椎動物の内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)や、哺乳類以外の脊椎動物の松果体細胞、脳深部光受容細胞などは視細胞に類似の分子構造をもつ光受容細胞であるが、視細胞には含めないことが多い。無脊椎動物の視細胞は、眼班、杯眼、カメラ眼、単眼、複眼など、多様な目と網膜の構造・機能ごとに様々な形態を示す。これらの視細胞の光受容装置は、微繊毛が主体をなすことが多い。微繊毛が細胞内光受容装置を作るもの(ミミズのファオゾーム)、長大化するもの(腹足類)、長大化した頂部を規則的配列させる微繊毛層がおおうもの(頭足類、節足動物の感桿分体)などが知られる。これらの視細胞は、比較的原始的な眼では支持細胞と共通の基底膜上にあるが、頭足類や節足動物では感桿分体とそれに続く視細胞の核上部だけが基底膜に残り、視細胞の核周部と核下部はその下に移動することが多い。
○進化(evolution):生物個体あるいは生物集団の伝達的性質の累積的変化。どのレベルで生じる累積的変化を進化とみなすかについては意見が分かれる。種あるいはそれより高次レベルの変化だけを進化とみなす意見があるが、一般的には集団内の変化や集団・種以上の主に遺伝的な性質の変化を進化と呼ぶ。進化遺伝学では、集団内の遺伝子頻度の変化を進化と呼ぶ。また、文化的伝達による累積的変化を進化に含めるときもある。さらに、生物個体や集団の進化に伴って生じる生物群集の構造変化も進化とみなすことがある。生物進化は、遺伝的に異なる性質をもつ生物個体の頻度が時間につれて変化することによって、あるいは異なる特性をもつ生物集団が新たに起源することによって生じるので、生物集団(個体群、あるいは種)より高次のレベルの変化は、生物個体や集団の進化の結果であるとみなす考えもある。evolutionの語は元来、発達・発生・発展・展開などの意味や、個体発生上の展開の意味で用いられていたが、後に種の分化や種形成、あるいはそれより高次レベルでも用いられるようになった。なお、歴史的にC.Darwinは「変化を伴う由来」(descent with modification)で進化の意味を表した。
す
○錐体(Cone):桿体と共に脊椎動物の網膜を形成する視細胞の一型。内節と外節に分かれ、視物質を含む外節(これだけを錐体、全体を錐体視細胞と呼び分けることもある)が円錐状をしているのが名称の由来。昼行性の動物の網膜に多く、昼間視(明視)および色覚に関与するとされる。トカゲ、ヘビ、リスなどでは視細胞のほとんどあるいはすべてが錐体からなる錐体網膜(cone retina)である。原始的な脊椎動物の眼ではその柄部が昼光下では収縮し、錐体を網膜の結像面まで引き上げる現象(retinomotor movement)が知られる。錐体の配列は多様で、基本である独立型錐体(single cone)のほか、硬骨魚類に見られる双子型錐体(twin cone)、主錐体(principal cone)と副錐体(accessory cone)からなり全骨類以上の硬骨魚に見られる不等双子型錐体(double cone)などがある。これら双子型錐体・不等双子型錐体は、二つの細胞の接着面における光の複屈折を利用して、その偏光面を感知するのに働いている。鳥類や爬虫類の錐体には、内節にカロテノイドを含む油球(油小滴 oil droplet)があるものが多い。外節には細胞膜の一部が光の入射方向に対して直角に陥入した膜性円板があり、ここに視物質が存在する。桿体との区別は、この膜構造が細胞膜と連続していることが基準の一つとなる。電気生理的には錐体の光感度は桿体に比べ数十分の一程度低いが、その光応答速度は逆に数倍速く、桿体に比べて急速に明暗順応する。多くの動物の網膜には波長感度の異なる数種の錐体があり、それぞれの錐体からの異なる光情報が統合されることにより色覚が生じる。例えばニワトリの網膜からは4種の錐体視物質が分離・精製され、そのうち赤色感受性錐体に含まれる視物質がアイオドプシンである。
せ
○脊椎動物(vertebrates):脊索動物の一亜門。脊椎動物門とされることもある。一般に現生はヌタウナギ類・ヤツメウナギ類・軟骨魚類・硬骨魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類の8綱に区別し、無顎上綱(前2綱)と顎口上綱(他の6綱)とにまとめる。さらに、顎口上綱を、魚形上網(軟骨魚類と硬骨魚類)と四肢上綱(両生類以下の4綱)とに分けることもある。また、無羊膜類(無顎類,魚形類および両生類)と羊膜類(両生類を除いた四肢類)の区分も用いられている。脊索を囲むようにして軟骨性あるいは骨性の中軸骨格が形成される。中枢神経は管状で脊索の背方にあり、前方では脳を形成、外見上は一般に左右相称性が顕著で、また体腔はよく発達して2~3部分に分かれるものが多い。骨・筋・神経などの内部器官には体節性があるが、成体では外観上はそれの認められないことが多い。循環系は閉鎖式で赤血球があり、呼吸系は鰓ないし肺。排出系と生植系は密接に関係し、開口部および生殖輸管は共通のものが多い。皮膚は外胚葉起原の重層上皮である表皮と中胚葉起源の真皮からなり、鱗・羽毛・毛などの付属物をもつものも多い。脊椎動物の起原については今日まで様々な説があるが、頭索動物と共通の祖先から分化したことが、現在では広く認められている。現生約4万5000種のほか、化石種も多い。
ち
○昼間視(daylight vision):明所での視覚様式をいう。薄明視と対する。網膜は明順応の状態にあり、視感度は低下している。脊椎動物の網膜では、錐体が昼間視を担当し、昼行性動物、例えば多くの鳥類や爬虫類の網膜はこれに富む。反対に夜行性動物では薄明視を担う桿体が多い(二元説)。脊椎動物では昼間視に網膜運動現象が補助的役割を演じている。節足動物でも。昼行動物の複眼(連立像眼)は視力において優れた昼間視型、夜行動物のそれ(重複像眼)は感受性において優る薄明視型をそれぞれ表し、さらに後者には、網膜色素の移動反応に基づき、連立像による昼間視態勢に切り換える能力まで備わっているとされている。
て
○転写因子(transcription factor):DNA上の調節領域(シス作用エレメント)に塩基配列特異的に結合して転写を制御する蛋白質。分子内にヘリックス=ターン=ヘリックス、ジンクフィンガー、ロイシンジッパー、もしくはヘリックス=ループ=ヘリックスなどのモチーフ(DNA結合モチーフ)をもっている場合が多い。代表例として、ファージや大腸菌のリプレッサー、形態形成に関わるホメオドメイン蛋白質、種々のホルモンやビタミン受容体、GCボックスに結合するSp1(Sp1蛋白質)、CAATボックスに結合するC/EBP、筋細胞の分化を支配するMyoDなどがある。多くの場合、転写因子はDNA非結合性のメディエーターを介して基本転写因子やRNAポリメラーゼに作用する。
は
○薄明視(twilight vision):暗所視。薄暗がり、すなわち外界から眼に入る光の強度が低いときに働く視覚。昼間視と種々の対立的な性質を示す。脊椎動物では、光感度は非常に高いが、分解能が低く、しばしば明暗だけを感じる視覚といわれる。また。色識別の能力もない。桿体が薄明視をつかさどる視細胞であり、実際、薄明視感度曲線は桿体の視物質であるロドプシンの吸収スペクトルと一致する。夜行性動物、例えばコウモリ、ネズミ、フクロウなどの網膜には桿体が多い。一方ヒトなどでは網膜の中心部(中心、黄斑ともいう)には錐体が多く、周辺部には桿体が多いので、薄明視の能力は周辺部が高い。種々の脊椎動物のロドプシンおよび錐体視物質のアミノ酸配列が決定され、ロドプシンの分子進化について考察されている。それによると、先祖型の視物質はまず4種類の錐体視物質に分岐し、そのうちの一つのグループからロドプシンが分岐してきたことが示されている。すなわち、薄明視は昼間視(あるいは色覚)よりも後になって進化してきた視覚であることが示されている。無脊椎動物では、薄明視・昼間視が細胞レベルで分担されているかはわかっていない。しかし、甲殻類や夜行性昆虫の重複像眼は、網膜色素の移動反応により、昼間視・薄明視間の転換を増幅する。同様な機構は脊椎動物でも網膜運動現象として知られている。
ひ
○光情報伝達(visual transduction process):
ふ
○分化(differentiation):
ほ
○哺乳類(mammals):
英語
C
Cone:錐体
D
daylight vision:昼間視
differentiation:分化
E
evolution:進化
F
fishes:魚類
M
mammals:哺乳類
R
rod:桿体
T
transcription factor:転写因子
twilight vision:薄明視
V
vertebrates:脊椎動物
visual cells:視細胞
visual transduction process:光情報伝達