米国の第47代大統領就任式
ドナルド・トランプ氏が、米国の第47代大統領に就任した。多くの意味で前例のない見事な復活を遂げ、正式に大統領の座に返り咲いた。2期目をスタートさせたトランプ氏は就任演説で、米国の「黄金時代」が始まるとし、自国の利益を優先させる考えを表明。「急進的で腐敗したエスタブリッシュメント」に対抗する姿勢を示した。
トランプ氏は米東部時間20日正午過ぎ(日本時間21日午前2時過ぎ)、米連邦議会議事堂でロバーツ連邦最高裁判所長官立ち会いの下、宣誓を行い、大統領に正式に就任した。J・D・バンス氏は、カバノー最高裁判事立ち会いの下で宣誓し、副大統領に就任した。
宣誓後にトランプ氏は「多くの人は、私がこのような歴史的な政治的復活を遂げることは不可能だと考えていた」としつつ、「だが、ご覧のように私は今ここにいる。米国民が意思を示したのだ」と述べた。
また「米国政府は信頼の危機に直面している」と発言。「国内の小さな危機ですら解決できない政府が、国外で続く壊滅的な出来事によろめきながら対応しようとしている」と不満を表した。
その上で、「きょうからわが国は繁栄し、再び世界中から敬意を表される存在になる。あらゆる国が羨望(せんぼう)のまなざしを向けるだろう。米国が利用される状況はもはや容認しない」と述べた。
演説でトランプ氏は、実施を目指す措置の多くについて詳細を明らかにした。不法移民の急増を取り締まるため、国境で国家非常事態を宣言すると表明。不法移民の問題は選挙中、有権者の間で特に大きな関心事の一つだった。
トランプ氏はまた、国家エネルギー非常事態宣言を行って米国民のコストを引き下げ、インフレ問題に取り組む考えを表明。連邦政府の所有地における新たな石油・ガス開発を可能にし、バイデン政権時の気候変動対策を覆すことで国内生産を増やすことを意図している。
「私の行政措置によってグリーン・ニューディールを終わらせ、電気自動車(EV)義務化を撤廃し、自動車産業を救い、偉大な米国の自動車産業労働者に対する約束を守る」と言明。また、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱すると明らかにしたほか、米国の戦略石油備蓄の購入を増やし、国外へのエネルギー輸出を拡大させる方針を示した。
トランプ氏はまた、外交においてさらに強い姿勢で臨む考えを示した。メキシコ湾を「アメリカ湾」に改名すると改めて表明し、パナマ運河を取り戻す考えも示した。
トランプ氏は規制撤廃や減税拡大を公約に掲げ、ウォール街や企業の多くから支持を獲得した。大統領就任式には、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏、メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグ氏、「政府効率化省(DOGE)」を率いるイーロン・マスク氏、TikTokの周受資最高経営責任者(CEO)らが出席した。
第45代大統領であり、そして今回第47代大統領となったトランプ氏は、8年前に打ち出した広範囲にわたるアジェンダへの取り組みを強化する方針を示している。今回は共和党による議会支配や保守派が過半数を占める連邦最高裁、共和党内におけるトランプ氏の求心力向上がアジェンダ推進を支える見通しだ。
関税
トランプ氏は選挙期間中、同盟国および敵対国に関税を課すと警告してきた。20日の就任演説でも、「米国民を豊かにするため諸外国に関税を賦課する」と述べ、これまで表明した方針を繰り返した。
演説後にトランプ氏はメキシコとカナダからの輸入品に最大25%の関税を2月1日までに賦課することを計画していると発言。また、全ての国・地域からの輸入品に対する一律関税を検討する可能性があると述べる一方で、「まだその準備ができていない」とも語った。
「米国で事業をしている者は誰であれ一律関税の対象となる可能性がある。彼らは米国に参入し、われわれの富を盗んでいるからだ」とした上で、導入は「速やか」なものとなるだろうとコメントした。
発言を受け、アジア時間21日の取引で、米株価指数先物とメキシコ・ペソ、カナダ・ドルが下げ、ドル相場は上昇に転じた。
大統領令
トランプ氏は就任式後、大統領令に相次ぎ署名した。
トランプ氏は米国内での中国系動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」使用禁止措置を75日間保留するよう司法長官に命じる大統領令に署名。米国の国家安全保障を巡る懸念要因となっている人気アプリを巡り、米国側との何らかの取り決めを結ぶ時間的猶予をTikTokと親会社の字節跳動(バイトダンス)に与えた。
世界保健機関(WHO)を巡っては、資金拠出が不公平だとして米国の脱退を命じる大統領令に署名。WHOは最大の拠出国を失うことになる。
エネルギーに関する大統領令には、一部の国に対する液化天然ガス(LNG)輸出の新規認可を一時停止する措置の解除も盛り込まれた。この措置はバイデン前政権が導入していた。
武藤容治経済産業相は21日の閣議後の会見で、新規LNG輸出許可停止措置の解除について、実行された場合は「供給量が増大することで需給が構造的にタイトな世界のLNG市場に影響を及ぼし、市場の安定化にも寄与する可能性があると認識している」と発言。「日本のLNGの調達予見性も高まると思う」と語った。日本は主要なLNG輸入国で、既に米国から購入している。
DEI義務化廃止
トランプ氏はまた、米国沿岸部の約6億2500万エーカー(約253万平方キロメートル)での新たな海洋石油・ガス開発を禁止するとしたバイデン前大統領の決定を取り消した。
ホワイトハウスの発表によると、トランプ氏は電気自動車(EV)義務化を撤廃する大統領令にも署名した。
また米通商代表部(USTR)に国ごとに貿易慣行の審査を行い、不公正な慣行が認められれば是正措置を勧告するよう命じた。さらに財務長官に対して、主要貿易相手国・地域の対ドル為替レートに関する政策や慣行を審査・評価するよう求めた。
トランプ氏は、連邦政府によるDEI(多様性、公平性、包摂性)義務化と政策を終了させる大統領令に署名。これとは別に、男性と女性の2つのみを「性」として認め、パスポートや査証を含む政府機関発行文書で記入者の性を正確に反映させるよう義務付ける大統領令も出した。これら文書では「ジェンダー」との用語の使用は認められなくなる。
トランプ氏はまた、ベネズエラからの石油購入を米国は「恐らく」停止するだろうと発言。就任式後に大統領執務室で「石油は十分あるので、彼らの石油を買う必要はない」と記者団に語った。
引用:Bloomberg Josh Wingrove
2025年1月21日 2:09 JST 更新日時 2025年1月21日 15:22 JST
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